赤の物語【1】

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 言いながら、腕に掴んだシエラを、見せ付けるようにシオンに向かって突き出す。 「シ…エラ!お前ッ――!ヒース!!シエラに何かしてみろ、お前を叩き潰してやる!」  動かぬ身体のままシオンは吼える。  だが、ヒースはそれをせせら笑った。 「叩き潰されてるのは君だろ?何かってそうだな…こういう事?」  ヒースの赤い眼が、不気味に揺らめいた気がした。  そしてヒースはシエラを掴んだ手に僅かに力を入れ、  次の瞬間、シエラは、  エリカの妹であり、エリカと同じくシオンの幼馴染であるシエラは、  ただの、血煙となった。  シオンは、ただ、呆然とそれを見ていた。  見ていることしか出来なかった。  ハハッ   アハハッ    アッハハハハハハハハハハハハハハッ!  床も、壁も、一面血の海になった部屋の中に、無邪気な笑い声が響いた。 「お前…」  返り血を浴びて、子供がプールではしゃぐかのような楽しげな笑い声をあげるそれ。  シオンは呆然と呟き、 「お前えぇぇぇぇぇぇぇっ!」  我を忘れて絶叫した。 「アハハハハハハッ! こんなものが壊れたってなんだっていうんだ!こんな弱い、くだらない生き物全員死に絶えればいいんだよ! 大体、君も人間じゃないくせに人間と仲良しこよしかい?馬鹿じゃないの? 君なんか人間にとってみれば気持ちの悪い化け物で、居なくなって欲しいってみんなに願われてるってのにさ、少しは許されてるかも知れないとでも? ほんっと……」  そこまで言って、ヒースはシオンの目の前まで歩いてきて、顔を上げて食い入るようにヒースを睨みつけるシオンを、膝をついて上から見下ろした。
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