赤の物語【1】

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 そしてシエラを手にかけたその手で、シオンの頬に触れる。  血塗れたその顔に、本当に、心から慈しむような微笑を湛えて。 「本当に可愛いね、シオン」 「――俺はッ!お前を許さないからな…っ!」  シオンは憎しみと殺意を漲らせた眼でヒースを睨みつけ、腹の底から唸るように声を絞り出す。  それを気にも留めずに、シオンの頬を撫でながらヒースは言葉を続けた。 「そんなだから、僕は君にもっと教えてあげないとって思うんだよ。 どんなに、人間に肩入れする事が無意味か、人間がどれだけ弱くて、醜い生き物か」  ――殴りたい、こいつを、せめて一発でも殴ってやりたい。  そう思うのに、指先に力すら入らない。  ――わからない。こいつは…俺と同じ顔を持つこいつはなんなんだ!? 「まあいいや。何年も人間に飼われてきたんだ。 僕の言うのがわからなくても当然かな。 それなら…少しずつ分からせてあげないと――人間共に、復讐する為に」  そう言ったヒースの声を最後に、頭に激しい衝撃を受けたシオンは、意識を失った。  遠くにヒースの可笑しそうな笑い声と、 「そういえばもう一人ももらって行くよ。 僕にとっては死のうが生きようがどうでもいい蚊みたいな存在だけど、君にとっては大事みたいだし…ね」 「君を苦しめるには、きっともってこいだよね…?」  霞行く意識の中に、そうなんでもない事のように言うヒースの声が聞こえた。            ××
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