赤の物語【1】

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 分からない事だらけだった。  目覚めた後辺りを確認すると、そこは迷宮のように感じた場所ではなく、ただの廃屋へと姿を変えていた。正確に言えば、戻っていたのだろう。  最後に聞こえたヒースの言葉通りに、エリカの姿はなく、シオンが取り残されているだけだった。  動きもしなかった体は、激痛は伴うものの、なんとか両の足で立って歩けるようになっていた。  シオンは体を引きずりながら、教会へ帰る。  ――あの少年、自分と同じ顔を持つあいつは、俺に関係のある人間に違いない。それなら、俺自身の事を調べれば、奴が何者なのか分かるはずだ。 「俺は…、なんなんだ?」  教会に帰ったシオンは血塗れたボロ切れのような姿のまま、司祭にそう尋ねた。  それが、自分自身なのかは分からない。  自分と全く同じ姿形を持つもの。  ヒースと名乗ったシオンの分身のような生き物。  彼を追う事が何の意味を持つのか、シオンに何をもたらすのかシオン自身にも分からなかった。  けれどヒースは、人間に復讐する、と言った。 あいつは簡単にシエラを殺した――。それも、笑いながら。  復讐というのは本当の事だろう。  お前が止めなければ何人も殺すよ。  そうヒースに耳元で囁かれているような気さえする。 「止めてやる。お前の好き勝手にはさせないからな」  何も出来なかった悔しさと、自分と同じ顔をした者が行った凶行への狼狽と怒り、そんな感情を胸のうちに渦巻かせながら、シオンは立ち上がった。  そう。 「だから」彼は旅立つ事となった。  旅の果て――地獄の底までも。
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