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分からない事だらけだった。
目覚めた後辺りを確認すると、そこは迷宮のように感じた場所ではなく、ただの廃屋へと姿を変えていた。正確に言えば、戻っていたのだろう。
最後に聞こえたヒースの言葉通りに、エリカの姿はなく、シオンが取り残されているだけだった。
動きもしなかった体は、激痛は伴うものの、なんとか両の足で立って歩けるようになっていた。
シオンは体を引きずりながら、教会へ帰る。
――あの少年、自分と同じ顔を持つあいつは、俺に関係のある人間に違いない。それなら、俺自身の事を調べれば、奴が何者なのか分かるはずだ。
「俺は…、なんなんだ?」
教会に帰ったシオンは血塗れたボロ切れのような姿のまま、司祭にそう尋ねた。
それが、自分自身なのかは分からない。
自分と全く同じ姿形を持つもの。
ヒースと名乗ったシオンの分身のような生き物。
彼を追う事が何の意味を持つのか、シオンに何をもたらすのかシオン自身にも分からなかった。
けれどヒースは、人間に復讐する、と言った。
あいつは簡単にシエラを殺した――。それも、笑いながら。
復讐というのは本当の事だろう。
お前が止めなければ何人も殺すよ。
そうヒースに耳元で囁かれているような気さえする。
「止めてやる。お前の好き勝手にはさせないからな」
何も出来なかった悔しさと、自分と同じ顔をした者が行った凶行への狼狽と怒り、そんな感情を胸のうちに渦巻かせながら、シオンは立ち上がった。
そう。
「だから」彼は旅立つ事となった。
旅の果て――地獄の底までも。
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