2人が本棚に入れています
本棚に追加
『魔眼のシェリー』と呼ばれる、報酬が高ければどんな仕事でもする男が居る。
どんな仕事でも、というのはその通りで、殺人だろうが、強盗だろうが、万と敵がいる戦争の傭兵だろうが、命の危険は全く顧みずに金額だけで仕事を選ぶのだ。
通り名についてはそのままで、『魔眼』を使う為にその通り名がついた。
『魔眼』とは、悪魔の目、人外の眼の事である。
人外にも色々種族があり、魔眼というのは魔力を溜め込んだ、それそのものが魔物のような眼の事である。
それを持つ為に、その通り名が付いたのだが、彼、シェリーは人間である。
少なくともこの世に生まれた時は人間だった。
マッドサイエンティスト、いわゆる気の変になった博士、というのはどこにでもいるもので、ここテス・リナリアには『人間と人外を人為的に一つにしよう』と考えたマッドサイエンティストがいた。
シェリーは、そのマッドサイエンティストの研究所の実験体だった。
彼に研究所以前の記憶はない。
消されたか、或いは研究所で産まれたか。
その真偽はわからないが、彼は16歳で研究所から脱走するまでは、研究所の景色しか知らずに育った。
彼の持つ『魔眼』は、その研究所で彼に埋め込まれた異物であった。
時を止め、人を従わせ、操る事の出来る眼。
彼は皮肉にも、自分を苦しめた研究所で手に入れた力を利用して生き延びていた。
研究所から逃げたものの、外の世界など全く知らない彼にとっては、それ以外に生きる術は見つからなかったのだ。
力を使い、生き延びる為にはなんでもする。
そうしていくうちにその通り名がついて、人々から恐れられるようになった。それだけだ。
それに――。
最初のコメントを投稿しよう!