黒の物語【1】

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『魔眼のシェリー』と呼ばれる、報酬が高ければどんな仕事でもする男が居る。  どんな仕事でも、というのはその通りで、殺人だろうが、強盗だろうが、万と敵がいる戦争の傭兵だろうが、命の危険は全く顧みずに金額だけで仕事を選ぶのだ。  通り名についてはそのままで、『魔眼』を使う為にその通り名がついた。 『魔眼』とは、悪魔の目、人外の眼の事である。  人外にも色々種族があり、魔眼というのは魔力を溜め込んだ、それそのものが魔物のような眼の事である。  それを持つ為に、その通り名が付いたのだが、彼、シェリーは人間である。  少なくともこの世に生まれた時は人間だった。  マッドサイエンティスト、いわゆる気の変になった博士、というのはどこにでもいるもので、ここテス・リナリアには『人間と人外を人為的に一つにしよう』と考えたマッドサイエンティストがいた。  シェリーは、そのマッドサイエンティストの研究所の実験体だった。  彼に研究所以前の記憶はない。  消されたか、或いは研究所で産まれたか。  その真偽はわからないが、彼は16歳で研究所から脱走するまでは、研究所の景色しか知らずに育った。  彼の持つ『魔眼』は、その研究所で彼に埋め込まれた異物であった。  時を止め、人を従わせ、操る事の出来る眼。  彼は皮肉にも、自分を苦しめた研究所で手に入れた力を利用して生き延びていた。  研究所から逃げたものの、外の世界など全く知らない彼にとっては、それ以外に生きる術は見つからなかったのだ。  力を使い、生き延びる為にはなんでもする。  そうしていくうちにその通り名がついて、人々から恐れられるようになった。それだけだ。  それに――。
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