黒の物語【1】

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 ――ヴィジョンで見たことはあるが、なんのこたぁねぇ小せぇガキじゃねぇか。  アイドルの護衛という、普段なら受けもしないその仕事を、破格の契約金を提示されたが為に引き受けてしまった、皆から恐れられる『魔眼のシェリー』は、その保護対象のアイドルを見てそう思った。  ――…おっきーなぁ、この人…。  対するシェリーの言うところのなんの事はない小さいガキは、普通の人間ならその白髪と長身、鉛色の眼を見て畏怖する所を、ただそれだけ思った。 「えっと、ユーリです!」 「………………」  普通に挨拶する、自分の鳩尾くらいまでの身長しかないその子供を見下ろしながら、シェリーはさも呆れた、という顔で、鮮やかに無視した。  「ああっと、この子が貴方に身辺警護をお任せするユーリちゃんで、この人はすごーく有名な強い人で、シェリーさんというの!」  場の空気を読んだのか、仲立ちにあたる社長は両人に代わって紹介をした。 「…分かってる」  しゃあねぇな…。と心の中で思いつつも、シェリーは依頼人である社長に返事をした。 「無視しないでくださーい」  言葉通りに無視されたユーリは多少むくれながらシェリーの目の前に立ってぴょんぴょん飛び跳ねながら自己主張する。  目の前にヒラヒラと手が揺れるのを見ながら敢えてユーリの顔を見下ろすまではせずに、眉間に皺を寄せながら鬱陶しそうに目の前のその手を掴んで、引き上げる。 「ひゃっ…」  驚いて声を上げるユーリだったが、気付けば片腕だけ掴まれて目線がシェリーと合うくらいの位置にまで吊り上げられていた。 「おい、ガキ。俺は手前ェの次のコンサートが終わるまでの護衛っつーので呼ばれてんだ。仕事だから手前ェの身は守る。――だが、手前ェと馴れ合う気はねぇ」  シェリーは片方だけの目で思いきりユーリを睨みつけながら言い放つ。  ――常人だったら、ましてやこんなガキだったら泣き出す所だろうが、ウロチョロされても邪魔なだけだ。怯えとけ。  そう思って、相手を怯えさせる為に相手を吊り上げ、その言葉を選び、釘を刺した。  つもりだった。
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