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――ヴィジョンで見たことはあるが、なんのこたぁねぇ小せぇガキじゃねぇか。
アイドルの護衛という、普段なら受けもしないその仕事を、破格の契約金を提示されたが為に引き受けてしまった、皆から恐れられる『魔眼のシェリー』は、その保護対象のアイドルを見てそう思った。
――…おっきーなぁ、この人…。
対するシェリーの言うところのなんの事はない小さいガキは、普通の人間ならその白髪と長身、鉛色の眼を見て畏怖する所を、ただそれだけ思った。
「えっと、ユーリです!」
「………………」
普通に挨拶する、自分の鳩尾くらいまでの身長しかないその子供を見下ろしながら、シェリーはさも呆れた、という顔で、鮮やかに無視した。
「ああっと、この子が貴方に身辺警護をお任せするユーリちゃんで、この人はすごーく有名な強い人で、シェリーさんというの!」
場の空気を読んだのか、仲立ちにあたる社長は両人に代わって紹介をした。
「…分かってる」
しゃあねぇな…。と心の中で思いつつも、シェリーは依頼人である社長に返事をした。
「無視しないでくださーい」
言葉通りに無視されたユーリは多少むくれながらシェリーの目の前に立ってぴょんぴょん飛び跳ねながら自己主張する。
目の前にヒラヒラと手が揺れるのを見ながら敢えてユーリの顔を見下ろすまではせずに、眉間に皺を寄せながら鬱陶しそうに目の前のその手を掴んで、引き上げる。
「ひゃっ…」
驚いて声を上げるユーリだったが、気付けば片腕だけ掴まれて目線がシェリーと合うくらいの位置にまで吊り上げられていた。
「おい、ガキ。俺は手前ェの次のコンサートが終わるまでの護衛っつーので呼ばれてんだ。仕事だから手前ェの身は守る。――だが、手前ェと馴れ合う気はねぇ」
シェリーは片方だけの目で思いきりユーリを睨みつけながら言い放つ。
――常人だったら、ましてやこんなガキだったら泣き出す所だろうが、ウロチョロされても邪魔なだけだ。怯えとけ。
そう思って、相手を怯えさせる為に相手を吊り上げ、その言葉を選び、釘を刺した。
つもりだった。
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