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赤の物語【1】
【赤の物語――「だから」】第一章
業暦(ぎょうれき) 1840年
ある村に、血の通わないかのように真っ白な肌を持ち、赤い眼を持つ少年がいた。
髪は闇を閉じ込めたかのような漆黒。
黒と、白のコントラストの中に両眼の赤がぽっかりと浮かぶ、そんな不気味な容貌を少年は持っていた。
彼は名をシオンといった。
赤子の彼がシオンの花咲く草原に棄てられていた為に、拾った教会のシスターがそう名付けたのだ。
赤い眼は人外の眼。
人外全てが赤い眼だというわけではないが、間違いなく人にはある筈のない眼だった。
「カイザー」と呼ばれる人外の種族がある。
赤い眼を持ち、悪魔の羽を持ち、竜の尾を持ち、けして打ち破る事の出来ない鋼の鱗を持つ人外。
その赤い眼で見た者の自由を奪い、鋭い鉤爪で相手を切り裂く魔物だと、伝承に残る人外である。
シオンは、そのカイザーの血を引いているのではないか?
人々はそう噂した。
そんな気持ちの悪い赤子は今一度棄ててしまえと人々は言った。
だが、彼を拾ったシスターはこう主張した。
「赤子に罪はありません。
彼がもし人ならざる者だったとしても、彼はそれを知らないのです。
罪のない赤子を、何故捨て置く事が出来るでしょうか?
そんな無慈悲なことを、神が許すでしょうか?」
と――。
信心深かった人々は、やむなくシスターの言い分を聞き入れた。
それでも、人々の心の中の「人外だと思われるシオンへの畏怖」が消えたわけではなかった。
成長と共に、やはりシオンは迫害され無視されることとなった。
それでも教会への体面がある以上、人々は彼を殺すような真似はしなかった。
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