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自分への迫害を理由に、シオンは人々を憎んだか?
答えはノーだった。
「俺が気持ち悪いってのは、まぁ間違いないし、その通りだと思う。
自分と違うものを気味悪がって石の一つも投げたくなるっていうのもしょうがない事だって思うし」
はは、と苦笑しながらシオンは言う。
既に17歳に成長したシオンだが、幼少期は人々の迫害について恨みを持たなかったわけではない。
けれど結局のところ、彼は人間が好きだった。
自分を拾ってくれたシスター、育ててくれた教会に感謝していたし、人間が自分に対して何故そうなるのか?という事も理解できた。
――人間は人じゃないものを恐がっているだけで、俺を恐がっているわけではないし嫌っているわけでもない。だから俺も人間は嫌いじゃない。
ことさらに前向きなシオンはそう思う事にした。
シオンが人間を嫌わない理由はもう一つある。
彼には幼馴染と呼べる存在がいた。
幼馴染、と言っても教会が預かっているシオンを含めた身寄りのない子供の一人の少女で、名をエリカといった。
年はシオンの一つ下だが、快活で気丈な性格の少女で、幼い時は年下だというのにも関わらずシオンを弟扱いして、手を引っ張って外に連れ出していた。
町の人がシオンに石を投げようとしてもエリカが庇い、シオンが怒ってもいないのに逆にエリカが怒って人々に怒鳴る。
「シオンが何したって言うの!
この子は優しい子なんだからね!
何もしてないのに石投げたらあんた達が悪党なんだから!」
幼い子供に悪党呼ばわりされた人々は、大変嫌な気分になった事だろう。さすがにそれ以上石を投げるのをやめた。
自分を庇ったせいで額から血を流しながら、それでもえへんと振り返って胸を張って笑う少女にシオンは感謝し、同時に僕がもっとしっかりしなくちゃと自分に言い聞かせた。
そのエリカの存在もあって、シオンは人を嫌いにならなかった。
次第に、自分が人間でないのは間違いないだろうが、それでも人間として生きていく事は出来るんじゃないかと思いはじめた。
普通に家庭を持って、妻と子供を守って生活していく。
そんなありふれた幸せをシオンは望んだ。
けれど――
シオンが人間でないという事実は、彼にそんなありふれた幸せを許しはしなかった。
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