赤の物語【1】

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 彼、シオンの夢は剣士になる事だった。  剣術道場にはシオンの見てくれもあって通うことは出来なかったが、彼なりに自己流で剣を学び、その術を身に付けていき、彼の住む村の近くの森まで行って獣や魔物を狩ることくらいは出来るようになっていた。 大きなイノシシを教会に持ち帰って、 「やった!俺も狩りが出来た!」 と意気揚々に皆に告げた時にはエリカにひっぱたかれて 「無益な殺生はいけません!」 と叱られたのだが。 人を守る為に剣を振るう事はエリカも、教会のシスター達も喜んだので、今度からはそうしようとシオンは肝に命じ、剣の修行に励んでいた。  そんな折だった。  教会の庭で剣の修行をしているシオンのところまでエリカが血相を変えてかけて来て、 「どうしようシオン!シエラが…シエラがいないの!」 と叫んだのは。  赤みがかった茶色の髪に、飴色の瞳のエリカが、その瞳を震わせ、健康な色の肌にびっしょりと汗をかいていた。  エリカの様子に面食らったシオンは今しがたまで剣の修行をしていたから汗はかいているというのに、その蒼白の肌は少しも紅潮していない。 「シエラが、どうしたって?」  シオンは剣を鞘に戻してエリカに向き直るとそう言った。  慌しくかけてきたエリカの様子にただならぬものを感じたのだ。  それほど、エリカは狼狽しきって駆け込んできたのだ。  シエラというのは、教会の孤児の一人であり、エリカの双子の妹でもあった。  性格はエリカとは正反対のおっとりとした、落ち着いた少女で、エリカと共にシスターになるべくして教会で勉強を続けている少女だった。 「朝はいたのにもう半日も見当たらなくて…。いなくなっちゃったの!教会の人に聞いても、町の人に聞いても全然知らないっていうし…それで…」 「それで、俺のとこに来たのか?」 「うん…。えっとね」 そこでエリカはあらぬ方向を見て、きまりが悪そうな表情で言い淀む。
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