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駆け出していく二人を見送る影ひとつ。
「シオンっていうんだ…」
その影は、誰へともなく口を開く。
「ふふ…羨ましいな、君は」
「でも驚いたよ。本当におんなじなんだもの。
本当はさ、幾分かは違うんじゃないかって僕は思ってたんだ」
「ああ、早く一緒になれないかな――」
うっとりとした表情になって、影は言う。
「でも、足りないよね?まだ、まだ…」
ふう、と物憂げに息をつき、思いを巡らすかのように影は空を見上げた。
「ねえ、苦しんでよシオン」
その声は、先ほどとは打って変わって、あまりにも冷徹な響きを放っていた。
傍らの木が、彼の存在に恐怖し、自らの葉をざわめかせる。
キケン キケン
それはまるで周囲の自然全てに警報を届かせるかのように、そして傍らの「異質」への恐怖に身を震わせるかのように。
「あのさ」
ざわめく木に手を付いて、影は抑揚のない声で語りかけるように言う。
めきっ ビキビキビキビキ
影が手を付いた木から、不可思議な音が鳴る。
その軋んだような音に合わせて、葉がより一層ざわめいた。
――悲鳴のように。
その音を聞いてか、影の唇の端が上がり引きつった笑いを作り出した。
バキリ
一層強い音が木の芯から鳴り響くと、手を付いたところから上の幹が奇妙に歪む。
ブチブチブチブチッ
そのまま幹はネジが回るかのように、手から上だけがねじれ、下の部分から離れていく。
離れた上部はそのまま倒れ、大きな音を立てて地面に落ちた。
「お前、五月蝿いよ」
木を上と下とでねじ切った影は、黙らせた事に喜びを感じているのか、薄く笑いながらそう言った。
「さて、と。シオンの顔も見れたし、早くこいつを連れてかないとね」
そう言いながらちらっと今しがた言った「こいつ」と思われるモノを見据える。
そこには赤みがかった茶の髪の少女が横たわっていた。
××
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