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「ふーん」
些か納得いかない様子で歩き始める。
私は慌てて後を追った。
別に追わなくたってよかったのだが、この時は全く気が付かずに、まだ少年っぽさの残る細い背中を小走りで着いていく。
窓が開け放たれた渡り廊下は、まだ肌寒さを感じさせる風が吹き抜けていた。
「菊池さ、本当に教えてくれないの?アドレス」
「いや‥‥あの‥‥」
先程までの勢いは無く、ただ一度断ってしまった為に素直に返事をすることが出来ない。
「じゃあ、手紙ならいいよな」
「手紙?!」
今時、手紙って。
「だってお前が教えてくれないからじゃん?」
またまた顔に出てしまったらしい。
「お前って‥‥そういえばいつの間にか呼び捨てだし」
手紙に対しては、あやふやにしたいが為にコメントを避ける。
そんな私の気持ちに気付いてか、突然振り向いて柔らかい笑顔を見せた。
「‥‥っ」
やっぱりこの人綺麗だ。
周りの女子たちはこぞって彼に憧れる。
子供と大人の境目。
まだ中性的な柔らかい雰囲気と大人びた癖のある表情。
悔しいくらいに綺麗。
悔しくやら、急にそんな事を思い恥ずかしくなって慌てて目を反らしたい気持ちで一杯になる。
ただ、見逃せないくらい印象的な表情に変わった彼を見逃すことは出来なかった。
そんな綺麗な顔をした彼が、
次の瞬間、先程垣間見た底意地の悪そうな笑みに変わってこう言った。
「菊池ー‥‥俺、完璧君なんかじゃないよ?」
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