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ゲートにリュカが殺され、無様にも自分が生き残ったあの日から、少年はあらゆる弱者を救い続けてきた。リュカを死なせてしまった罪を償うために。
奴隷として売られかけていた少女を助けた事もあった。スタージャに討伐依頼を頼まなけねばならぬ程の魔物を殺した事もあった。
幾千もの賞賛を浴び、人の喜ぶ顔を見た。それがレイにとっての幸福──かと言えば、もちろんそうだ。
決して優越感から生まれる喜びではない。人間として、笑顔を向けられる事の幸福感を、人一倍感じ取れる境遇に今までいたのだから。
だが、シコリが残る。どんなに人助けをしようとも、どれだけ感謝されても、コリコリと心に嫌な感触が。
それの正体をレイは知っていた。罪悪感だと。リュカを殺したのは、間違い無くゲート。しかし、その原因を作ったのは、紛れもなく自分自身。
もっと早く自分の愚かさに気付けていれば。せめて信用できる仲間達には、計画の全てを話していれば。そんな思い、後悔が胸を締め付けて離さない。
何より許せないのは、神と同等と言ってもいい力を持つ自分が、一番救いたかったリュカを救えなかった事。その仇に、無様に敗北してしまった事。
その無念を晴らすために、レイは前を向き続ける。誰かに分かってもらいたい訳でない。この気持ちが理解されなくても構わないから。
「俺は、お前を殺す。この戦争を終わらせて、世界を統一し、死んだとき……リュカに最高の世界を作ってやったって……笑ってやるさ」
破壊神を取り込み、ライトよりもスーよりも、もしかしたら自分よりも最強で最凶の存在になったゲートを睨みつけた。ちっぽけな転生者は。
復讐者の長い絶叫が終わった時、二人は殺意も怒気も全てひっくるめて睨みあう。それでも、意外にも冷静にゲートは呟き、
「……良いところに連れて行ってやる。お前の墓場に相応しい所へな」
「気が合うな。俺も行こうと思っていたよ。違うのは、死ぬのはお前だって事だよ。クソ野郎」
レイもまた静かに応じた。両者のその静けさは、まるで嵐の前のようで。
刹那、二人は消えた。向かう場所は決まっている。かつて様々な戦いが繰り広げられた、あの狭間の世界へと。
◇◇◇
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