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◇◇◇
「父さんいるかな?」
クレアがランドから帰宅し、出迎えにきたメイド達に放った第一声がそれだった。
いつもならば軽い挨拶をしてもらえたので、メイド達は少し驚くが、にっこりと微笑み、
「ドラグ様は今日はスタージャで緊急の会議だそうです。お急ぎの様であれば、サンに伝えますよ」
残念そうな顔をするクレアへと返した。
「……いや、大丈夫だ。っ、それよりも」
どうみても大丈夫とはほど遠い表情を浮かべていたクレアであったが、その視線がメイド達の中のまだクレアと年がそう変わらない女に向けられた瞬間、顔つきを一変させる。
自分が何か粗相をしたのではないかと、若いメイドは気が気でなかったがクレアはずんずんとメイドの方へ歩み寄り、
「君は新しく入ってきた……メイだったかな。フォーリス家のメイドとしてこれからもよろしく頼むぞ」
頭に手を乗せ、優しく微笑む。
「……はっ、はい!!」
極度の緊張からの甘い微笑みによる安堵感に、メイは顔を赤らめる。
しかし、クレアはメイの変化に気も止めず、足早に邸宅の方へと歩いていく。
「……ほんと、クレア様は女たらしね」
「メイちゃん?私達の立場を忘れちゃ駄目だからね」
「……はい。でも、正直食べちゃいたい位です……」
「……まぁ、気持ちは分かるけども」
メイド達の声がクレアに届いていなかったのは、どちらにとっても幸せな事だった。
フォーリス家の闘技場へと駆けていくクレアが父親であるドラグの行方を聞いたのには訳がある。
それは、間近に迫った模擬戦の相手が決まったからだ。
しかし、相手がただの貴族の子息や実力者であったからといって、クレアがあそこまで残念そうな顔を見せるわけがない。
何故なら、クレアは学年の中でも五指に入ると言われている程の実力者なのだから。
そう、それがただの実力者や貴族だったのならば残念な表情を浮かべない。
クレアが戦うと決まった相手は、憎き水の貴族の娘ミーナ・リンク
だけではなく、
あのSランク4位の称号を持つレイだったのだ。
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