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「――……ここはどこだ?」
昇降口を出発してから数分後、誰ともすれ違うことなく見事に迷子になっていた縁は目の前の教室のプレートを確認する。
「生物室って……さっきも見たぞ…………どこだここ?」
いつの間にか同じ場所を行き来していたようだ。
どこって生物室か、っと自問自答しているとふと前の方から誰かが歩いてくるのが見えた。
どうやら女子生徒のようだ。
「やっと人に会ったか……あのーすいません」
その声で相手もこちらに気づき、ゆっくりと近づいてくる。
顔がはっきりと見える位置で二人は立ち止まり、すぐにお互いの視線は重なった。
黒髪を胸の辺りまで伸ばした女子生徒は真っ直ぐに縁を見つめ返している。
「どうしたんですか? こんなところで」
恐らく上級生だろう。
女子生徒の丁寧な言葉遣いには落ち着きがあるように見えた。
少なくとも自分と同じく迷子になっているわけではなさそうだ。
「実は迷子になってしまいまして……一年D組の教室ってどこですかね?」
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