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穏やかな春の日差しが降り注ぐ。
春一番とは誰が名付けたのだろう。
この時期に強く吹きつける風は都会の中でも草花の香りを不思議と感じさせ、新たな季節の到来を実感させるには十分だった。
時刻は午前九時。
今朝早くに届いた郵便物をポストから取り出し、ソファに座りながら一つ一つ確認している青いパジャマ姿の少年がいた。
「またこの勧誘かよ、最近しつこいな。お、……母さんからの手紙か、めずらしいな」
全てを確認し終え、少年は表に見たことのない外国の文字と共に”音村縁 様”と書かれた手紙だけを残し、郵便物をごみ箱に捨てた。
裏にはしっかりと封がされてあり、右手で開けて中身を取り出す。
中には丁寧に半分に折られた手紙が二枚と写真が一枚。
『拝啓 音村縁様
お元気ですか。母さんと父さんは元気です。
この手紙をあなたが読んでいる頃にはきっと母さん達はエジプトにはいないでしょう』
「……まぁいつものことか」
ふと写真を見てみる。
そこには大きなピラミッドを背景にしばらく会っていない両親が仲良さそうに肩を組んで写っていた。
「今度はエジプトかよ……。前回はインドだったっけな」
前回よりも少し老けたような気もするが思い過ごしだろうと考えを改める。
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