狼記物語Ⅱ-1

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「あぁ、濡れた濡れた…。」 少年が少し広い洞窟の中に、どっと降り出した雨をしのぐために駆け込んだ。 手のひらほどの大きさの布で顔を拭きながら外をうかがう。 「すぐには止みそうにないなぁ」 しょうがない、と一歩後ろに下がった。そのとき、こつんと足がなにかにぶつかった。 振り向くと黒髪の青年が座っていた。相変わらず瞼を閉じている。寝ているのかと顔を覗き込んでみた。 「なんだ?」 「わっ」 突然青年が口を開いた。 「ご、ごめんよ。寝ているのかと思って」 「……」 青年は少し不機嫌そうに眉をひそめた。でも瞼は閉じたままだ。 なんとなく自分より先に口を開いてくれたことに嬉しくて、ついぺらぺらと少年は喋りだしてしまった。 「昼間に笛を吹いていたヤツだよな?」 「……」 青年はぴくりともしない。でも少年は続けた。 「わたしは楽器は全く出来ないから憧れるなぁ。何処かで習っていたのか?相当腕のいい人に教わったのだろう。」 「……」 「そういえば、まだちゃんと自己紹介をしていなかったな。」 「……」
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