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突然背後から聞こえた声に、三人は弾かれたように後ろを振り返る。
声からして男性だ。
しかし、声を発したその人物は街灯から少し離れたところに立っており、明かりに馴れた目では顔がよく見えない。
一体いつから居たのだろう?
時間も時間なので、ただただ薄気味悪い。
「この辺りで女を見なかったか?
黒髪に蒼い目の女だ」
互いに目を見交わし、諒が躊躇いがちに口を開く。
こういう場合に年長者が発言するのは当然の成り行きだが、この場合に限って、それは失策だった。
「あの、見ました」
馬鹿正直に告げた姉に時雨は咎めるような目線を送ったが、諒は気が付かない。
「どちらへ行った」
「えっと、あっちです。
──あ、でもちょっと待ってください!」
方角を指すやいなや踵を反しかけた男を諒が呼び止めた。
表情は見えないのだが鬱陶しがっているのが仕草でわかる。
だが、そんなことで怯む諒ではなかった。
空気が読めない上にやたら図太い神経をしているのが諒という人物である。
ついでに言えば、良くも悪くも嘘がつけない性格で、筋金入りのお人好し。
先ほども顔さえわからない相手の問いにあっさり答えるほどだ。
逆に、警戒心が強く人をすぐには信用しない時雨は「余計な事を」と内心舌打ちした。
時雨は自分と違い、誰にでも公平で気が優しく、頑固だが正義感の強い姉を尊敬しているが、こういう場面での諒の言動は些か軽率だ。正直嫌な予感しかしない。
そして哀しいかな、時雨の勘はよく当たる。
「あの、もしかしてあの女の人と知り合いですか?
さっき妹とぶつかったとき、荷物を間違えられてしまったみたいで……」
諒にしてみれば今まで三人で頭を悩ませていた問題に解決の糸口が見えたような……まさにそんな気持ちだったに違いない。
しかし、諒がもう少し警戒していれば──或いは、時雨があれほど警戒していなければ、何か変わっていたかもしれない。
諒の言葉を聞いた瞬間、男の雰囲気ががらりと変わった。
「……それは本当か?
荷物というのは今、どこにある」
男は完全にこちらに向き直っていた。
もう女性を追う気配もない。
男が追っていたのは女性ではなく荷物の方だったらしいと、すぐさま時雨は勘付いた。
彼女は、時雨にぶつかるより前から、何かから逃げている様子だった。
恐らくは、この男から。
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