説教は乾杯のあとで

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「ですから、長谷見せんせいの授業に足りないのはスピードなんです」 炉端焼きの店「鶏皇」。タレの匂いが立ち込める店内隅のテーブル席、ぼくの向かいに座った里村三佳は、グラスを勢いよく置いて力説した。 「単元ごとの内容を丁寧にさらうのもいいでしょう。ですけど、テスト前でも同じペースなのは困ります」 一息に言い切ると、三佳はグラスをグイッとあおる。 黒い板張りのテーブルに列ぶのは焼き鳥の盛り合わせ、トリササミのサラダ、自家製お新香など。 ぼくが楽しみにしていた「鳥そぼろの卵かけ親子丼」は、なんとなく手をつけにくい雰囲気の中で冷め始めていた。 捻ったつもりで彼女を炉端焼きに誘ったのだけど、すかさず乗ってきたのには驚いた。 もっと驚いたのは、いきなり黒霧島をボトルで注文したことだ。 気がつくと、目の前には芋焼酎をロックでやる、クールビューティの皮をかぶったオッサンがいたわけで。 ほどなく説教タイムに突入し、縮こまって焼酎をすすりつつ拝聴しているぼくなのだった。
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