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「長谷見せんせい、この後ちょっといいですか?」
彼女に声をかけられたのは、面倒な予想問題の編集がようやく終わり、一息ついた時だった。
最後のコマがとっくに終わった22時前。塾に残っているのはぼくら二人だけだ。
彼女、里村三佳はぼくと同じ英語講師だ。確か今年で24。
歳は一つ下だけど大学一年からこの塾で教えている古株で、中三担当の講師陣の、言わば主任のような役を務めている。
「大丈夫ですよ。もうやることもないですし」
ぼくは答えた。
このところ度々開催されている「反省会」のお誘いだ。と言っても、実際反省させられるのはぼくだけなのだけれど。
ショートカットに細いフレームのメガネが似合う三佳は、「才女」という言葉の3Dモデルだ。
進学塾とは言い難いこの「誠英館」のレベルを一人で上げているエースでもあり、父兄及び館長先生からの信頼も篤い。
同じく受験生を預かる彼女にしてみれば、「のほほんハセミー」と異名をとるぼくが歯痒いに違いない。
そんなわけで、半月に一回は連れ出されるぼくなのだった。
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