8人が本棚に入れています
本棚に追加
「ですから、長谷見せんせいの授業に足りないのはスピードなんです」
炉端焼きの店「鶏皇」。タレの匂いが立ち込める店内隅のテーブル席、ぼくの向かいに座った里村三佳は、グラスを勢いよく置いて力説した。
「単元ごとの内容を丁寧にさらうのもいいでしょう。ですけど、テスト前でも同じペースなのは困ります」
一息に言い切ると、三佳はグラスをグイッとあおる。
黒い板張りのテーブルに列ぶのは焼き鳥の盛り合わせ、トリササミのサラダ、自家製お新香など。
ぼくが楽しみにしていた「鳥そぼろの卵かけ親子丼」は、なんとなく手をつけにくい雰囲気の中で冷め始めていた。
捻ったつもりで彼女を炉端焼きに誘ったのだけど、すかさず乗ってきたのには驚いた。
もっと驚いたのは、いきなり黒霧島をボトルで注文したことだ。
気がつくと、目の前には芋焼酎をロックでやる、クールビューティの皮をかぶったオッサンがいたわけで。
ほどなく説教タイムに突入し、縮こまって焼酎をすすりつつ拝聴しているぼくなのだった。
最初のコメントを投稿しよう!