カルマの坂

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 今から随分と昔の事、  薄汚れた街の片隅に、  一人の少年が居た。  親は無く、身寄りもない。  あるのは薄汚れた服、靴、そ  れと生身の体だけだ。  そんな少年は生きるために、  毎日盗みを繰り返した。  大人は醜い。  まるで豚のようだ。  そんな太った大人達の隙間を  風のように駆け抜ける。  所詮豚は人間には追いつけな  い。  「ドロボー!!」  叫び声も遠く、小さくなって  ゆく。  こんな毎日が日常になった。  「いつか殺してやる!!卑しい  『黒猫』め!!」  彼の異名はこの国で不幸をも  たらすとされる『黒猫』。  風のように駆け、  猫のように闇に溶ける。  少年を捕まえられる奴は誰も  居なかった。  裏路地に入った少年は1人呟  いた。  「…なんだってしてやるさ。  」  …生きるためならば、いくら  でも盗み、騙し、駆ける。  ──…最近は、パンを盗み、  空腹を満たすのが日課だ。  しかし彼にとっては、子供の  トイレに等しい。  それは生きる為の行為であり  是も非も関係なく行うだけだ。  ただ、純粋に、生きることに  固執する。全ての人間はみん  なそうだ。  彼もまた同様に、どんなに罪  を重ねようと、瞳は穢れず輝  いていた。  まるで何も知らないかのよう  に。  確かに辛いし、苦しい。  捕まらないにしても、偶には  殴られ、蹴られ、はたまた斬  られる事だってある。  こんな生活、幸せなんて夢の  また夢だ。  でも、幸せであろうと無かろ  うと、少年は貴族や町民とは  違ってこうやって生きなけれ  ばならない。  『人は皆平等である』  『神は貴方をいずれ天国へ導  くであろう』  こんな事を掲げる政治家は彼  に言わせればペテン師も同じ  だった。  …天国でも、地獄でもきっと  此処より幾分かは良いだろう。  盗んだパンとリンゴをかじり  ながら、少年はふと思う。  ─…本当に、神に召されたそ  の時は、喜んで逝こう、と…。 .
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