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「……『鴉』」
『鴉』と呼ばれる子供は、こ の町のいわば情報屋だ。
この町の事で知らない事はま ず無いだろう。
暫く黙っていると、『鴉』は ヒヒッと不気味に笑った。
「『黒猫』ぉ、あんたあの娘 に惚れたのかい?珍しいこと もあるもんだ。」
「んなっ…!?」
「隠すな隠すな。咎めてるわ けじゃないさ。
商売の話を持ちかけてるだけ さ。」
「…何が欲しい。」
情報屋とのやり取りは、相手 の条件を飲むことで成立する。
ソレがどんなものであろうと 、望む物を渡せなければ、話 はオジャンだ。
……少年は少女に心を奪われ た。
あの姿を見てから鼓動の高鳴 りを押さえられない。
助けたい、あの少女を。
この時、少年は初めて誰かの 為に何かをしたいと思った。
「ヒヒッ…そのパン、譲って くれないかい?」
「良いだろう。」
手に持っていたパンを全て渡 してやる。
少年はいつも通りに一文無し となった。
だが、今の少年にとっては、 そんな事はどうでも良かった。
あの子を助けられるなら…!!!
「ヒヒッ…今娘が入った家は ねぇ、ここらじゃ有名な変態 さぁ。
買ってきた女奴隷を壊れるま で遊び尽くす。
今の娘は上玉だねぇ。質のい い女は壊れた後も剥製として 置いとかれるって話さ。」
視界が真っ白になった。
世の中の全てが敵に思えた。
フラツいた足を一歩踏み固め、
そして、空いた手を大きく振 り、叫びながら大通りに向か ってただ走り続けた。
今、穢れの無いあの少女の 体には、醜く汚れた豚の手が 触れているのだろうか。
自分の望まない事をされて いるのだろうか。
「あぁぁぁぁ"ああァァア"ア ァぁぁ"ぁ"ああァア!!!!!」
自分は無力だ。
人1人助けてやれない。
『神は貴方をいずれ天国へ導 くだろう』
もし居るとしたら、俺や、あ の子を天国に導いてくれる?
──…神なんて、居ないのか もしれない。
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