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辺りが赤く染まり、人通りが 減ってきた。
店を閉め始めているところも ちらほらあった。
そこに小さな陰が、ユラリ。
「『黒猫』だーっ!!」
静かな町に怒号が響く。
──…鍛冶屋からだった。
彼が抱えていたのは背丈の半 分はあろうという大きな剣。
重い、今まで盗んだ何よりも。
…それでも引きずりながらど うにか、暗い路地裏に身を潜 めた。
「どこだ!!探せ!!」
「くっそ…『黒猫』め!!」
「まだ近くにいるはずだ!!」
ダダダダ……
足音が遠くなった。
「……よし。」
重たい剣を引きずりながら、 路地の闇に溶ける少年は、風 のように駆け抜ける姿ではな く、素早くしなやかな猫のよ うな姿でもなかった。
それでも、夕日の沈む坂の上 で力強く佇む姿は、紛れもな く生にしがみつこうとする人 間の姿だった。
「もう少しだけ、待ってて… 。」
少年の眼に、もう迷いは無い。
彼の目は夕日で煌々と燃えて いた。
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