プロローグ

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 ひとつの大地が数多の国に分かれた世界。  いくつもの種族が共存し、魔法と化学が発展した世界の中で国同士の戦が絶える事はなかった。  特に昔から、協定を結ぶことは決して不可能だと言われていた二つの国の戦争が収まる事はなかった。  ひとつは、蒸気機関と化学が盛んな≪帝国≫と呼ばれる国、ラナ・テュール帝国。  もうひとつは、魔法が盛んでワルプルギスという神を守護神として讃える≪神聖国≫と呼ばれているワルプルギス神聖国。  この二つの国の何百年にも渡る確執は拭えず、現在に至る。  そんな中で、どの国にも属さない≪最強≫という言葉が誰よりも釣り合う男がいた。  彼の名は、アルトナ=ロックフォード。  アルトナは、最強の矛も盾も持たない。強靭な肉体を持つわけでもない。  その存在が≪最強≫なのだ。  正体は謎に包まれており、人の姿はしているが、帝国と神聖国が戦場で戦う中、たった一人で二つの軍勢を仲裁したことでその名が馳せられた。  その後、彼の姿を見たという報告はなく、彼の存在は二つの国では戦場を穢し攪乱させた異端者として指名手配され、民衆の間では戦争を仲裁した英雄と謳われた。  そんな噂が出始めた頃からだった。  アルトナと同じ姓を持つイクセルが周囲から好奇の目で見られるようになったのは。  神聖国の騎士として働いていたイクセルは、アルトナに関する情報を寄こせと脅され、理不尽な拘束を受け、それがどうしても嫌だった。  もう此処にはいられない。  もう捨ててしまうしかない。  だが、自らの剣の腕を買ってくれる騎士団は、イクセルの辞表を受け取らなかった。  剣の腕も立ち、アルトナに関係があるかもしれない人物をわざわざ手放す気はないという騎士団の意思は容易に予想できることだった。  ならば、自分が此処にいられない理由を作ってしまえばいい。  神聖国が忠誠を誓う神…ワルプルギスを冒涜し、象徴を破壊してしまえば自分は晴れて、犯罪者となるだろう。  神聖国の象徴であるワルプルギスの女神像を粉砕したイクセルは、重罪人となった。  しかし、これまでの彼の功績に免じ、極刑は免れ、騎士の免許剥奪と神聖国そのものの追放を受けた。
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