1.木曜日正午。授業の終了を

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顏を綻ばせて仲良く駆け出した二人を見て、善司は展開についていけずにひとり戸惑っていた。 それに若干引いていた。 (えぇ~。購買のパンを巡って、本気で銃撃戦をするつもりなの?) 生徒会報「ハリネズミ」でも紹介されたことのある《クサナギ》争奪戦の光景を、善司はリアルタイムで目にしている今もまだ信じられなかった。 まさか本当に戦いが勃発するなんて――幻の惣菜パン《クサナギ》は、それほど危険を冒してまで手に入れたくなるような至高の一品なのだろうかと善司は思う。 (食べてみたい気もするけど、先輩が相手じゃ敵うわけないよ――) 色白でなで肩の男らしさの欠片もない善司は見た目に比例して、性格も内気で常にネガティブ思考なため、普段から何をやってもうまくいかないでいる。 運動能力は人並みにはあるのだが内向的な性格が災いして失敗することが多く、そのせいで何事もやる前から諦める癖がついていた。 今日だって想一たちから半ば強引に誘われなければ、このような争いの場には来ていなかっただろう。 (駄目だな、ぼくって。本当に) 常にポジティブシンキングで失敗を恐れない長太郎の背中を羨ましく見つめながら、善司は心の中で彼に声援を送ることが精一杯の自分に嫌気が差していた。 「勝負だ、長太郎!」 「うおおおおおおおおおおおおっす!」 長太郎と敏は互いに距離を縮めて、一定の距離まで来たところで立ち止まって相手に銃口を向けた。 その時―― がららららっと購買の正面にある廊下側の窓が勢いよく開き、突風が吹いた。
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