1.木曜日正午。授業の終了を

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想一や長太郎、長太郎と知り合いの先輩とも違う男の声。 逆らえば容赦はしないだろう声の持ち主は一体、誰なのかと思考を巡らせながら、善司は廊下に膝をついた。 「刀子のヤツに先を越されたが――まだ、残っているよな」 それは独り言なのか、それとも自分に尋ねられているのかがわからず、善司は何も答えられなかった。 (ぼくの知らない三年生なのかな) 名取先輩を下の名で呼び捨てにしているあたり、彼女と親しい上級生なのだろうと善司は推測する。 (この人の目的も《クサナギ》なら、ここはおとなしく従うしかないな) 相手が上級生で、後ろを取られた状態からだと抵抗のしようがないと善司は戦わずして身も心も投降することにした矢先―― 「諦めるな。一度諦めたら、それが習慣となる」 今度は、彼の耳に聞き慣れた同級生の声が入ってきた。 「日常だって戦争だ! ――なんて。身近な非現実に触れたくてこの学校を選んだけど、やっぱり正解だったよ」 両手を挙げた状態で膝をついている善司からは見えない方向から話をする何者か。 「誰だ、おまえは?」 「You talkin' to me?」 「ハ?」 「先輩、ごめんなさい。言ってみたかっただけです」 上級生に対しても大好きな映画のセリフを交えて話を進める相手の姿を、わざわざ確かめる必要は無かった。
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