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二〇二六年七月三十日 東京都あきる野市
木曜日正午。
授業の終了を告げるチャイムと同時に、二人の生徒が教室を飛び出した。
「おまえら、ちゃんと挨拶してから教室を出ろ! あと廊下を走るんじゃない!」
教室の入り口から顔を出した教師の怒声を背中に浴びても、二人の男子生徒――眞柴想一と一三四善司は廊下を駆ける足を止めない。
「そ、想一くん、どうしよう。先生、すごく怒ってるよ」
「人生は一本の映画なんだ。何が起きたって、不思議じゃないさ」
「どうなんだろ、その解釈」
想一のあとに続いて走る善司は今更になって、終わりの号令を待たずに教室を抜け出したことを悔やんだ。
そんな善司の落ち込みを察知したのか。深緑色のマリモに似た髪型の想一は、後ろを向いて笑う。
「Don't think.feel! 悔やんだって仕方ない。今は自分の欲求に、忠実に動く時だ」
「そうなのかな――って、想一くん!? 前、前!」
色白の善司は頬を紅潮させながら叫ぶも――
「ぐはっ!」
前方不注意。
眼前に迫る壁に気付かず、想一は勢いよく激突した。
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