1.木曜日正午。授業の終了を

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※ 「一学期最後の昼食は、イザナギの購買パン《クサナギ》に決まりだ!」 今朝、教室に入ってきた長太郎が開口一番、想一と善司に向かって言い放ったこの一言がすべての始まりだった。 購買で一日限定三個のみ売り出される幻のパン――《クサナギ》。 ヤマタノオロチの尾からうまれたと言い伝えられている三種の神器のひとつと同じ名を冠するそのパンは個数が少ない上、非常に人気があり、すぐに売り切れてしまうのでほとんどの生徒は現物を見たことすらないという。 「噂によれば、菜の花によく似た味ののらぼう菜が生地に練り込まれ、そこにあきる野市産のとうもろこしの粒がトッピングされた、シンプルだが自然の旨味が最大限に引き出された最上級の惣菜パンらしい」 「うまそうだね。《クサナギ》、おれも前から一度食べてみたいと思ってたんだ」 「で、でも、ぼくらに買えるかな。上級生の間で毎日、《クサナギ》を巡って激しい争奪戦が行われているんでしょ?」 限定三個という数少ない惣菜パン《クサナギ》を巡る苛烈な争いは三年生――特に実技において成績優秀な者同士で繰り広げられている。 そのあまりにも壮絶な戦いに巻き込まれるのを避けるため、下級生は事態が収まるまでは購買にも食堂にも近寄ることがない。 「長太郎くんも想一くんも見たことあるでしょ? 戦いに敗れた者たちが購買前に積み上げられて出来た死屍累々の悲しい山の姿を」 「ああ。だからこそ、いいんじゃないか」 「え?」
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