1.木曜日正午。授業の終了を

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「いや、ちょっと待て!」 想一は言いながら、長太郎が肩から提げているボストンバッグのストラップ部分を掴んで強引に制止させた。 「うおっ!」 一瞬転げそうになる長太郎だったが、どうにか踏ん張って体勢を整え、後ろを向いた。 「想一、何をする! 購買は目の前だっていうの――」 「しっ。誰か出てくる!」 想一が食堂のショーケース脇に身を潜めたので、残りの二人もそれに倣って隠れることに。 (チャイムと同時に教室を飛び出したぼくたちより先に、この場所に居るのは――誰?) 善司たちが恐る恐るショーケース脇から顔を出し、前方を確認すると――隣にある購買部のお店の中から、ひとりの人物が出てきた。 「!」 長太郎、想一、善司は相手の姿を確認し、驚きのあまり、すぐさま互いの顔を見合わせた。 三人はその人物が誰なのかを知っていた。 というより、この学院に通う生徒の中で、彼を知らない者は皆無だろう。 七対三に綺麗に分かれた白髪、詰襟のある黒の軍服に姿勢正しく身を包む五十代後半くらいの見た目をした彼の名は、奈良原光明。 「――学院長がどうして購買に?」 この東都防衛学院を総べる学院長がそこに居た。 右手に幻のパン《クサナギ》を携えて。 光を宿さぬ冷たい双眸を持つ奈良原学院長は規則正しい動作と一定のリズムで廊下を歩き、隅っこにしゃがんで隠れている長太郎たちの横を静かに通り過ぎて行った。
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