動き出した物語

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暗い部屋。 青い光がほのかに部屋にいる二人を照らすだけ。 「こうして会うのは五年ぶりかな?水城。昨日は大変だったようだね」 「大変だったのは父さんの方じゃない?事後処理とかさ」 フロウ大陸北部統括組織『闇夜』局長 一色翔平(いっしき しょうへい) とその息子 一色水城(みずき) がこの部屋にいる。 「事後処理が大変なのは翔(かける)の方だよ」 「結局、一番隊の仕事になったんだ」 久々の父と子の会話。 しかし、水城は端から見ると適当に流しているようにも聞こえる。 「南部はどうだった?」 「のびのび出来たよ。 色々と参考になったし」 「人はまだ一度も?」   殺してないのか? あとに続くであろう言葉を察してか空気が若干冷え込む。 「昨日を見ての通り」 「12人を捕縛、重傷者0。 あってるかな」 父のにこやかな顔からは何も読みとれない。 呆れているのか。 誇らしげに思っているのか。 怒っているのか。 驚いているのか。 何にも。 「人を殺すことが出来なかったらだめなの」 否定的な意味にとらえたのか水城が口を開く。 「そんなことは言ってないよ」 「父さんが僕くらいの時で僕の立場だったら殺してた?」 少しの間。 返答を考えた後、翔平が口を開く。 「わからないな。 ただ、捕縛が難しいと感じたら躊躇せずに殺すよ」 異常が正常。 『人を殺してはいけない』 などという幻想は30年前に砕け散った。 「……そう」 沈黙が支配するかと思われた空間にノックの音が響く。
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