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あのあと本部に帰り、報告書の作成や隊員からの報告書の確認、まわされた仕事のチェックに今日の死体の確認。
果ては謙弥の広告の裏に書くという暴挙にでた報告書を書き直させると言った無駄に近い仕事を終わらせると10時をとおの昔に過ぎていたというね……。
満天の星空の元、家までたどり着く。
何を好き好んでか(広い戦闘空間、『道徳の崩壊』の時に師弟関係にあった母さんを隠すためだが)まわりに木しかないところにぽつんとあるのが、今日みたいに遅くなる日では厄介だ。
ただ、どんなに夜が更けようとも月がでてればしっかり周りが見えるし、出ていなくても星があれば見えないことはないんだけどね。
「さすがに遅すぎだよな…」
家の前で自然とつぶやく。
父さんはあんまり聞かないだろう。
母さんは、案外すんなり行きそうだ。
兄さんは義姉さんのところだし。
……問題なかったな。
鍵を差し込み扉を開ける。
これまでより強い光がこぼれると同時に、視界に明るい茶色い髪でエプロンを付けた美女が正座しているのが飛び込んだ。
「おかえりなさい。ご飯にする?お風呂にする?それとも寝」
「失礼しました」
おそらく世界最速の扉閉めを披露しただろう。
胸に手を当て、下を向いたまま深呼吸。
ふぅー。
家にいたのは確認するまでもなく杏里だ。
まずもって前提として、僕が杏里を間違えるわけがない。
次に、母さんは黒髪で小柄。顔だって違う。全然違う。武器の性質上美しさが特に保たれやすいが、んなもん関係ない。個人的には杏里に勝てるはずがない。
最後に、父さんであるはずもない。
では何故?
それを確認するためにドアノブに手をかけようとすると、勢いよく開くそれに思いっきり叩かれる。
「さすがにその反応は失礼なんじゃな……って大丈夫?」
「そう見えるなら眼下行け」
鼻血はでてないが猛烈に痛いから!
さらに追撃をかけようと思ったが、思いの外あわてて杏里が出てくる。
「えっと、痛いの痛いの飛んでけー?」
わしゃわしゃと僕の頭がなでられる。
それによって僕の気勢は完全にそがれ、安心してしまう。
『子供扱いすんな!』と他の人は言うだろうが、僕はこれが何故か好きなのでされるがままである。
あんまり子供扱いされたことが少ないからかもしれないが。
されたとしても、『英雄の息子』だし。
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