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火曜日は、広樹(ひろき)を検査に行かせることから始まる。
前日の夜、『明日は検査を受ける』という約束をするが朝になると『嫌だ』とぐずる。
「広樹、起きろ。検査だぞ」俺は布団にもぐっている広樹に言う。
なんの返事も返ってこない。「広樹」
俺は布団をはぎとる。
「やだ―」
広樹はジタバタする。
「昨日は受けるって言ったよな」
「言ってな―い」
うるんだ目で俺を見る。 「言っただろ。指切りもした」
「してないもん」
涙がこぼれる。
「約束守らないとパパが悲しむぞ」
俺はそう言って広樹を抱っこする。
広樹の父親は、パイロットだ。世界中をとびまわるため、あまり広樹のところに来ることは出来ない。母親のいない広樹にとって父親は、そばにいてほしい存在だが、子供心に言えないんだろう。しかし広樹はまだ2才である。
1階のレントゲン室に行くために階段を降りているとナースが走ってきた。
「唐澤医師(からさわせんせい)!真奈(まな)ちゃん喀血です」
「呼吸困難は?」
「あります」
「座位にして、咳をさせて下さい。すぐ行きます」
「はい。…あっ、咲(さき)ちゃんが医師に話したいことがあるって言ってました」「分かりました。ありがとう」俺は少し早足になる。
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