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「おまえそれで良いのか?」木下が言う。
「景子ちゃんは違うんじゃないのか」
そう言い捨て木下は出て行った。
「…あいつ学生の時から景子さんにほれてたから」 藤巻が苦しそうに言う。 「俺だってこれで良いとは思っていない」
涙がこぼれた。
「おまえ忙しすぎるからな。景子さんだってあちこちを回るおまえを誇りに思ってると思うんだけど」 そう言って藤巻は「苦しいね」と呟いた。
真奈の病室に入る。
「薬の時間だぞ」
「なんかあったの?」
心配そうに聞いてくる。 「なんで?」
「元気ないから」
「そんなことない」
俺は病室を出ようと足をふみだした。
「どうして医師(せんせい)ってそうなの?時々元気ないけど、いつ聞いてもちゃんと答えないよね。私は小学生だから医師の気持ちを解ってあげられないかもしれないけど、たまには話してくれても良いじゃん」
真奈は俺をにらんでいる。 「仕事中は俺の話はしない」「じゃあ仕事以外で来て」俺は真奈の気持ちを受け止めきれなかった。自分の気持ちだけで精一杯だった。「…ごめん」
大人気ないが俺はそう呟き病室を出た。そのまま真っ直ぐ歩き、最初の角を左に曲がって立ち止まった。 『じゃあ仕事以外で来て』
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