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「そうですか・・・」
話を聞いた彼女は、ゆっくりと古木を見上げ、
もう一度「そうですか」とつぶやいた。
彼女は良く、古木を見上げたり、
幹に寄り添う様に座っているのを見ていたから、
きっとすごく名残惜しいのだろう。
その時の私は、そう思った。
「ヴィオ坊っちゃん」
ふいに呼ばれ、彼女に目を向けると、
ゆっくりと振り返った、彼女と目が合った。
初めて会った時と同じ、温かく優しい微笑み。
「私がここに来て五年になります。
坊っちゃんは本当に大きく立派になられましたね」
「何だよ急に・・・」
何故急にそんな話になるのかと思ったが、
褒められた照れくささで、目をそらした。
「この木を切ることには・・・、私も賛成です」
私が視線を戻すと、彼女は寂しそう笑顔で目を閉じた。
「古い木です、もう病を治すことはできないでしょう。
倒れれば誰かが怪我をしてしまうかも知れないし、
お屋敷を傷つけてしまうかも知れませんしね」
彼女が目を開く。
古木の葉と同じ緑色の瞳が僅かに揺れたように見えた。
「一つだけお願いがあります」
「?」
「この木を切った後も、この木がここに有ったこと。
ゼイヴォン家と、貴方と共に有ったことを、
どうか忘れないで下さい」
あまりにも真剣な彼女の声に、私は黙ったまま頷いた。
私が頷くのを見て、彼女は満足そうに笑い、
古木を見上げた。
「この木も、貴方がたを見守り続けてこられて、
きっと満足だったはずです」
彼女の言葉に連動するように、
木の葉が風に揺れた。
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