ある初夏の日

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その次の日から数日、私は他家に呼ばれて屋敷を離れた。 屋敷を出る前に、最後の見納めにと古木を見上た。 病で弱りながらも、最後まで生きようと空に枝を伸ばした姿が、 とても美しく見えたのを覚えている。 「いってらっしゃい」 そう言ってほほ笑み、私の乗る馬車が見えなくなるまで、 深く深く頭を下げた彼女。 それが、私の見た最後の彼女の姿。 彼女が姿を消したと知ったのは、 他家の晩餐会に参加していた時だった。 月の出ていない夜だった。 屋敷に戻れたのは真夜中だったが、庭にあの古木が無いのは分かった。 嫌な予感に、速くなる心臓。 ノックもせずに開いた彼女の部屋のドア。 「どうされました?」 いつもなら聞こえるはずの声は無く。 薄暗い部屋は、不気味なほど静かだった。
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