ある初夏の日

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それから、屋敷の者総出で探したが、 一週間たっても、一か月たっても、 彼女が見つかることは無かった。 彼女がいなくなったのと同じ、 月のない夜。 私は一人きりの部屋で、 声を殺して泣いていた。 当たり前の様にいた人が、突然いなくなった。 孤独感と、喪失感。 不意に机の上に置かれたヌイグルミが目に入った。 彼女は何故かこのヌイグルミを気に入っていて、 良く、見つめたり、抱いていたなと思い、 そっとヌイグルミを抱き上げた。 黒いボタンの瞳。 その周りだけ、うっすらと色が変わっている。 触れると、僅かだが濡れていた。 「お前も、寂しいのか?」 自分でも馬鹿なことを言ったと思った。 だが、それ以上に悲しくて、 ヌイグルミを抱きしめたまま、声を上げて泣いた。
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