14人が本棚に入れています
本棚に追加
瞼をゆっくりと上げる。大きく息を吸う。少し汗をかいたみたいだ。Tシャツを脱ぎ、黒のタンクトップに着替えた。
携帯が鳴った。
「誰だ?」
「いやいや、名前出てるでしょ?」
「名前は入れてない」
「はあ? じゃあ、誰かからの着信かわかんないじゃないですか」
「いや、番号を覚えている」
「マジ呆れますよ。いや、そこまできたら、才能だな」
「それで、何の用だ?」
「仕事ですよ。忘れてたんですか?」
「俺は、今まで仕事を忘れた事なんてない。それに、まだ集合時間ではない」
「五分早いだけじゃないですか。何事も五分前行動が基本ですよ。理想は十分ですけど」
「そうなのか?」
「いいから、早く降りてきてください。今日、洗車したからピッカピカっすよ」
「ああ、今行く」
電話を切った。
携帯電話と財布をジーンズのポケットに突っ込む。白いシャツを羽織り、胸ポケットに煙草とライターを入れる。テレビ台の引き出しからナイフを出し、腰にあるフォルダーに入れた。
今日も俺は、自分の死んだ命と共に腐った世界に溶け込んでいく。
最初のコメントを投稿しよう!