野獣

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 瞼をゆっくりと上げる。大きく息を吸う。少し汗をかいたみたいだ。Tシャツを脱ぎ、黒のタンクトップに着替えた。  携帯が鳴った。 「誰だ?」 「いやいや、名前出てるでしょ?」 「名前は入れてない」 「はあ? じゃあ、誰かからの着信かわかんないじゃないですか」 「いや、番号を覚えている」 「マジ呆れますよ。いや、そこまできたら、才能だな」 「それで、何の用だ?」 「仕事ですよ。忘れてたんですか?」 「俺は、今まで仕事を忘れた事なんてない。それに、まだ集合時間ではない」 「五分早いだけじゃないですか。何事も五分前行動が基本ですよ。理想は十分ですけど」 「そうなのか?」 「いいから、早く降りてきてください。今日、洗車したからピッカピカっすよ」 「ああ、今行く」  電話を切った。  携帯電話と財布をジーンズのポケットに突っ込む。白いシャツを羽織り、胸ポケットに煙草とライターを入れる。テレビ台の引き出しからナイフを出し、腰にあるフォルダーに入れた。  今日も俺は、自分の死んだ命と共に腐った世界に溶け込んでいく。
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