子供

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 入口に着く。右に見えるポスト。僕の家のポストには、色んな物がはみ出ている。ポストの中身を取るのは僕の仕事だった。今日は、取る必要はない。この先、取ることはないのかもしれない。  外の階段を上る。十五段ある階段を一段ずつ上る。初めてこの階段の段を数えられたのは、確か一年生の時だった。夏の日。お母さんと、自治会のお祭りに行く時だった。お母さんも一緒に数えてくれた。嬉しかった。お母さんが、出来ることを僕にも出来るようになった事が嬉しかった。  二階に着く。四番目のドア、一番奥の部屋が僕の家。いつもは、何も考えずに進めたのに、今日は一歩踏み出すのに勇気がいる。同じ景色なのに、似ているだけの、別の場所にいるみたいだ。 「どうした、リュウノスケ」 「うん。なかなか進めなくて」 「そうか」  背中に何かが触れる。後ろを見る。背中を見る。おじさんの手が僕の背中にあった。おじさんの顔を見る。 「手伝ってやる。ゆっくりでいい。進んでみろ」 「うん」  右足を少し上げて、前に出す。左足も同じようにする。ゆっくり、確実に前に進む。一つ目のドア。二つ目のドア。三つ目のドア。足が止まる。息を大きく吸う。息を吐く。前に進む。進む。  四つ目のドア。僕の家。茶色のドア。 「ここだな」 「そうだよ」 「俺はここで待ってる。何かあったらすぐに出てこい」 「わかった。行って来ます」  ドアノブを握る。息を止めて、右に回す。ドアノブが止まった。引く。ドアが開く。僕の家だ。家の匂いがする。すごく久しぶりに嗅いだ気になる。二日前は、この家に居た。当たり前のように居た。 「……ただい……ま」 「誰?」奥からお母さんの声が聞こえた。  靴を脱ぎ、奥に進む。お母さんが、立っていた。驚いた表情で僕を見る。 「お母さん……ただいま」 「……リュウノスケ、何でここにいるの?」 「いちゃ、だめかな」  お母さんは何も言わなかった。驚いた表情に、少しずつ力が入っていく。今度は、怒った表情になった。 「何であんたがここにいるのよ!」  お母さんの怒鳴り声が、僕の鼓膜を突き刺した。
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