子供

5/6
前へ
/17ページ
次へ
「ああ、もう! どうするのよ!」お母さんは、その場でしゃがんで頭を抱えて、怒鳴り続けた。「どうしたらいいの? もう、時間がないじゃない」 「……お母さん」  お母さんは、立ち上がるとテーブルに置いてあるバックから携帯電話を取り出して、誰かに電話をかけた。 「もしもし……、帰って来ちゃった。……うん、うん。……知らないわよ。あなた、ちゃんと届けたんでしょ?」  目の前に居るのは、本当に僕のお母さんなのかな? 電話をしながら、僕を睨む。何で、そんな顔で、僕を見るの? 「えっ? 私が、やるの? どうやって、……うん。うん……わかった」  お母さんは、携帯電話を切り、バックの戻した。キッチンに向かい、手を洗い始めた。 「リュウノスケ。お母さんとお父さんはね、すごく困っているの」お母さんは、背中で喋っている。僕を、見ようとしない。「助けてほしの。リュウノスケに」お母さんは、蛇口をひねり、水を止めた。 「助けるって?」  お母さんがこっちに来る。手は濡れたままだ。僕の前で立ち止まり、しゃがんで僕の顔を見る。 「いい。リュウノスケは、何もしなくていいから、じっとしててね」 「どうして?」 「いいから」お母さんは、僕の首に手をかけた。「リュウノスケ。お母さんを助けて」  お母さんの瞳に僕が映る。首を絞められている僕が映っている。お母さんなのかな? それとも、僕が僕じゃないのかな? お母さんは誰? 僕は誰?  息が出来ない。顔が少し痺れてきた。もう、どうしたらいいかわからない。 『リュウノスケ。大好きだよ』  お母さんの声がした。頭の奥の方で。でも、姿が見えない。お母さんは、もう、居ない。 「笑えねえな」  誰かの声がした。次の瞬間、僕は倒れこみ、咳が止めどなく出る。空気を何度も吸う。首を触る。お母さんの手はない。 「くだらねえ事してんじゃねえぞ」  僕は、首を押さえながら、声がした方を見る。  お母さんは、倒れていて、その前におじさんがいた。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加