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「ああ、もう! どうするのよ!」お母さんは、その場でしゃがんで頭を抱えて、怒鳴り続けた。「どうしたらいいの? もう、時間がないじゃない」
「……お母さん」
お母さんは、立ち上がるとテーブルに置いてあるバックから携帯電話を取り出して、誰かに電話をかけた。
「もしもし……、帰って来ちゃった。……うん、うん。……知らないわよ。あなた、ちゃんと届けたんでしょ?」
目の前に居るのは、本当に僕のお母さんなのかな? 電話をしながら、僕を睨む。何で、そんな顔で、僕を見るの?
「えっ? 私が、やるの? どうやって、……うん。うん……わかった」
お母さんは、携帯電話を切り、バックの戻した。キッチンに向かい、手を洗い始めた。
「リュウノスケ。お母さんとお父さんはね、すごく困っているの」お母さんは、背中で喋っている。僕を、見ようとしない。「助けてほしの。リュウノスケに」お母さんは、蛇口をひねり、水を止めた。
「助けるって?」
お母さんがこっちに来る。手は濡れたままだ。僕の前で立ち止まり、しゃがんで僕の顔を見る。
「いい。リュウノスケは、何もしなくていいから、じっとしててね」
「どうして?」
「いいから」お母さんは、僕の首に手をかけた。「リュウノスケ。お母さんを助けて」
お母さんの瞳に僕が映る。首を絞められている僕が映っている。お母さんなのかな? それとも、僕が僕じゃないのかな? お母さんは誰? 僕は誰?
息が出来ない。顔が少し痺れてきた。もう、どうしたらいいかわからない。
『リュウノスケ。大好きだよ』
お母さんの声がした。頭の奥の方で。でも、姿が見えない。お母さんは、もう、居ない。
「笑えねえな」
誰かの声がした。次の瞬間、僕は倒れこみ、咳が止めどなく出る。空気を何度も吸う。首を触る。お母さんの手はない。
「くだらねえ事してんじゃねえぞ」
僕は、首を押さえながら、声がした方を見る。
お母さんは、倒れていて、その前におじさんがいた。
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