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天井を見ていた。息も少しずつ落ち着いてきていた。首には、まだ絞められた感覚が残っている。お母さんの手の跡。痛みは感じない。でも、感覚が取れない。感覚は、痛みより、痛い。
僕の、頬に何かが流れる。涙が、流れる。泣いているつもりはないのに。勝手に涙が流れたのは、初めてだった。
「あ、あなた、誰ですか?」
「リュウノスケの、知り合いだ」
「そうですか。もう、行って下さい。私には、時間がないので」
「安心しろ。もう、リュウノスケを売る必要はない」
「何なんですか、あなたは。知ったようなことを言いますけど」
僕は、上半身を起こし、二人を見る。おじさんの奥にお母さんが、床に座っていた。おじさんを見上げているその表情は、今まで見たこともない顔だった。睨みつけている表情に、僕は恐怖を感じた。お母さんに、恐怖を感じるなんて。嫌だった。
「いいだろう。教えてやるよ。お前とあの男がリュウノスケを渡そうとしていた所は、変態どもが集まる、あるパーティー会場だった。そこでは、月に一度、人とは思えない、クソみてえな食事会が行われる」
「えっ? あの人はそんなこと……」
「お前の男は、 海地羽会若頭補佐・直系諸峰組の組員なのは知っているな」
「何となくは」
「モロミネは、多額の上納金を納めようとしていた。ある計画の為に。そこで、新しいビジネスを始めその為に、組員に無茶苦茶な動きをさせている。リュウノスケを、その変態どもに売ればかなりの金になるからな」
「そんな事、聞いてません」
「そりゃ、本当の事は言わねえだろう」
「リュウノスケを……、売るなんて」
「だよな。自分の子供を売るなんてな、親として最悪な事だ」
「はい」
「でもな、お前はそれ以上にクソだ。わかってんのか? 自分がした事を」
お母さんは、何も言わない。顔を押さえて、泣き始めた。
「お前は、自分の子供を殺そうとした。その、薄汚れた手で首を締めた」
「止めて下さい! こうするしかなかったの! あの人の為に、こうするしかなかったの!」
「呆れるな。男の為に、自分の子供に手を出すなんてな。いつまでも女気取ってんじゃねえぞ」
「うるさいわね。あなた、誰なんですか?」
おじさんは、丸いサングラスを取り、煙草に火をつけた。
「俺は、海地羽会若頭補佐・直系希崎組組長のキザキだ」
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