野獣

5/10
前へ
/17ページ
次へ
 俺は反射的に前を見た。妹が宙を舞っていた。身体は頭が下になり、両腕は自分を抱き締めるような形になっていた。妹は、ゆっくりと頭から地面に落ちていく。  目が合った。  俺の息が止まる。  妹の瞳から泪が反対側に流れる。  妹は、頭から地面に落ちて、一度跳ね上がると、今度は背中から地面に着地した。  状況が理解出来なかった。何がここで起こったのかわからなかった。俺は、放心状態のままゆっくりと妹に近付いていった。  妹の身体は電気ショックを受けてるかのようにピクピクと動いていた。後頭部に腕をまわす。生ぬるい。左手で妹の右頬を触る。白目をむいていて、舌が飛び出ている。  妹の動きが止まった。  俺は、妹をそっと抱き締めた。生を感じないその身体は、とても小さく感じた。  ほんの数秒前に見せてくれた妹の笑顔が脳裏に浮かんだ。  俺は天を仰ぎ、叫んだ。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加