野獣

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 悲鳴が聞こえた。叫び声が聞こえた。俺は、顎を引き辺りを確認した。  まるで地獄絵図だ。  沢山の人が倒れていた。頭から血を流す男、肩の皮が捲れて骨が見えてる女、脚が逆に曲がり血を吐き出して倒れてる老婆、もう動かない人形のような子供を抱いて泣き叫ぶ母親、顔中にガラスが刺さっている幼女、その状況をただ呆然と見ている者、電話をする者、写真を撮る者。  ここはどこだ? これはなんだ? ここはどこだ?  何かがぶつかった音が聞こえた。そして、また悲鳴が聞こえた。  トラックがコンビニに突っ込んでいた。クラクションが鳴り続けている。運転席から男が降りてきた。額から血が流れてる。男は身体をよろめかせながら、何かを叫び路地裏の方に走って行った。  その時、俺にはやるべき事がわかっていた。  妹の開いたままの瞼を右手で下ろす。飛び出した舌を戻す。額に付いた泪を拭く。そして、耳元に顔を近付ける。もう、俺の声は届かない事はわかっていた。それでも俺は、妹に呟いた。 「ちょっと行ってくる。少し待っていてくれ」  妹の身体を地面に寝かせる。俺の白いシャツは赤く染まっていた。立ち上がり、妹を見る。呼吸は落ち着いている。  俺は、男の後を追った。
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