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左手で男の髪を掴み、右の拳で顔面を殴る。何度も殴る。鼻が折れる。左手に力を込め、髪をむしり取る。左と右の拳で交互で顔面を殴る。拳が赤くなる。右手の中指が折れたのがわかった。それでも殴り続ける。
男は、それでも笑っていた。いや、実際は笑っていなかったかもしれない。今更、そんな事はどうでもいい。
男の口を左手で塞ぐ。右手で男の腹を何度も殴る。次は、胸を殴る。あばら骨が折れ、胸がへこんでいくのがわかった。俺の右手もボロボロだ。
次の瞬間、何かが突き刺さるような感覚が俺を襲った。
男の目だった。ひび割れたように赤い線が入った瞳が、俺を捕らえていた。
殺される。
俺は、男の左手に刺さっていたナイフを抜き、右目に刺す。ナイフをグリグリと動かし、抜いて隣の目にも刺す。
殺される。殺される。殺される。
俺はきっと、この瞬間に殺されたんだ。
心臓が破裂しそうだった。身体から冷たい血が吹き出るようだった。呼吸のリズムがバラバラだ。寒気も感じる。
俺は、動きを止めた男から下りると、そのまま空を見ながら倒れていった。いつの間にか空はオレンジ色になっていた。
終わった。全てが終わった。
「おいおい、すげえなあんた」
後ろから声が聞こえた。
身体を起こし、後ろを振り向くと、スーツを着て丸いサングラスをした男が立っていた。
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