<出会いは合コン>

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話は、今からおよそ5ヶ月ほど前にさかのぼる。 蒼と直樹は引越し初日で右も左も分からない土地にも関わらず、とりあえずは探検から、ということで夕飯の買い出しついでに近所をブラブラと歩いていた。 夕飯と言っても、時計を見るともう21時前。 引越しの荷物整理や掃除やらでクタクタだった2人は夕飯は軽く済ませようと考えていた。 どこかで外食でもいいし、スーパーがあればそこでお惣菜を買ってそれで済ませよう、といったところだろう。 駅の方に向かっていれば、何か店が出てくるだろうと予想し、宛てもなく歩いていると、2人は1件のある店に目が止まった。 暖かみを感じさせるオレンジ色の小さな和風のお店。 看板には「よいよい」と達筆で書かれており、外装からはどこか懐かしさを感じる。 窓からちらりと店内を覗くと、客はおらず、カウンターの向こうでは1人の男性が何やら調理しているようだった。 金もないが空腹だ。 そんな2人は立てかけてあるメニューに目を通し、これならいける、とでも言うように互いに頷き合い、その店の引き戸を引いた。 「らっしゃい!お好きなところどうぞ!」 店内に入った瞬間、何かを煮詰めているいい香りがし、店内には先ほど窓から見えた男性しかおらず、彼は人懐っこい笑顔で迎えてくれた。 2人は唐揚げ定食と生姜焼き定食をそれぞれ注文した。 どうやらオープンしてすぐのお店らしく、店内には「祝・よいよい開店」と書かれたカードの入った花がいくつか飾られていた。 カウンターの奥を覗いてみると、ダンボールが山積みにされており、食器棚であろうところにはまだ少ししか食器が並べられていなかった。 そんな店に引っ越してきたばかりの2人は自分たちのように、この店も引っ越してきたばかりなのだな、と勝手に親近感を覚えた。 程なくして、カウンターの方からいい香りが漂ってきた。 2人は顔を見合わせ、待ち遠しく母親の夕飯を待つ子供のようにニヤニヤした。 そんな表情をしながら他愛のない話をする2人を見る良幸もまた、開店してから初めての若者客ということもあり、早く食べてもらいたいという気持ちからニヤニヤしていた。 「はい、お待ちどうさん。」 湯気の立つ料理を目の前にして、2人は思わず「うまそー!」と言った。 そんな2人に気分を良くした良幸は、ちょっと待ってろ、と一刻も早く食べたい2人を静止させた。
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