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貴恵さんだろうか?
「いらっしゃいませ」
女主人の声が響く。
僕が注視すると、目が合った。
彼女は目礼し、近づいて来た。
「お忙しいところを、すみません」
彼女は一度、深く頭を下げてから腰を降ろした。
迷いなく座ったところをみると、僕と解っているようだ。
「すみません。私の方から、お願いしてるのに待たせてしまって」
「いいえ。大丈夫です。僕も来たばかりです。今日の予定の仕事は、なんとかなりました。外は暑いですね」
なんとなく冗舌な挨拶になったのは、麻美へ気を使って、余計な事をしゃべるまいと緊張していた反動かも知れない。
貴恵さんはセミロングの黒髪をかきあげるような仕草をしてから、ハンカチで額の汗を拭った。シックなワンピースで清楚な感じを受ける。濃いブラウンのショートカットで活発な麻美とは対照的な印象だ。
そして小柄な女性だった。
清田陽一も小柄で、彼はそれに劣等感を持っていると漏らした事があったが、女性の場合は身長の低いことが劣等にはならない。寧ろ可愛らしく映るからだ。
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