夏日

20/20
前へ
/128ページ
次へ
僕は鍵をポケットに収めてから煙草を手に取った。 「すいません。煙草を喫ってもいいですか?」 「えっ? はい、どうぞ」 「すいませんと言っておきながら、すいますって変ですけどね。はは……」 そう言いながら僕が煙草に火を点けると 「まあっ! ……あははは、うぷっ」 彼女は両手で口を塞いだ。 軽い冗談が通じた。だが、この一言は実は余計だ。もし麻美が居たなら、何故、よその女の歓心を買おうとするのかと注文がつくかも知れない。 貴恵さんが余りに畏まっているので、それを和ませる以外の他意はないのだが、女性はそうは取らない。このへんの感覚の違いを説明できないから男と女は難しい。 「お待ちどうさまでした」 トレーを抱えた女主人が立っていた。
/128ページ

最初のコメントを投稿しよう!

83人が本棚に入れています
本棚に追加