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貴恵さんはグラスを引き寄せてストローを差し、テーブルに指先を置いた。
「この携帯なんですけど……」
「ええ」
「不思議なのは兄は、これを持っていなかった事なんです」
「と言うと?」
「これは事故現場ではなく兄の部屋に有ったんです。兄の性格からして持って出るのを忘れるとは思えないんです。いえ、例えば忘れたにしても、兄の性格なら、すぐに取りに戻る筈なんです」
「ふうむ……それは不思議ですね。携帯を持たずに外出するなんて……僕でも取りに戻りますね。いや僕は、ずぼらですけど仕事に支障が出ます」
「ええ、普通そうだと思います」
彼女はスプーンでアイスクリームを掬い、口へ運んだ。
「ということは……彼は意図的に、これを置いて出たか、それとも何か余程の事情で戻る時間がなかったと言う事ですね?」
僕は煙草を揉み消した。
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