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「カウンターでも構わないけど個室の方が落ち着くでしょ? ダメ元で訊いてみたら丁度キャンセルが出たところだったの。ラッキーよ」 麻美は弾んだ声を上げながら腕を組んで来た。そうして方向を確かめると迷いなく歩き出した。 「念の為だけど……煙草は喫えるんだろうね?」 「そうよ。その為に変えたんだから。あっ……」 「えっ、なに?」 「ほら、お月様があんなに、くっきり……」 麻美はビルの間に浮かんだ満月を見つけて足を止めた。そうして少しだけ小首を傾げる仕草を見せた。 恐らく本人は無意識の所作で、気づいていないのだろうが、僕にはそれがとても可愛らしく映る。 「ああ。ほんとだ」 僕は月を仰いで賛意を伝え、彼女が再び歩き出すのを待った。
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