夏日

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三十歳にもなって、いい大人が、まるで交際相手から信用が無いみたいで……いや、実際、信用されていないから、こういう事になってしまった。 これは僕の落度ではない。かと言って麻美が特別に疑り深い性質とは言えないだろう。 女性の一般的な習性なのだ。 自分以外の女と何故、接触しようとするのか?  それは不実な行為だと考えてしまうに違いない。 それが女性の思考回路なのだ。 そうとしか思えない。 貴恵さんは理由を話せば解ってくれるだろう。 だけど、なんだか会うのが恥ずかしい。 予定を変更したいが、今更そんな事をすれば麻美からの詮索が輪をかけて厳しくなるばかりだ。 煙草を吹かしたくなって、また休憩室へ足が向いた。 「ふうっ !」 我知らず大きな溜め息が出た。 転勤で鹿児島へ異動になった風間先輩の言葉が蘇る。 『女と深い仲になるには覚悟が要る。女が男にかしずくなんて思うなよ。そんなのは小説の中の話だ。つまりは幻想なんだよ。現実は小説のように甘くはない。ホントだぜ。高村も、いずれ解るさ。自由に生きたければ女と距離を置くことだ』 「ふうっ」 風間先輩の言葉の意味が今になって解る。
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