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「あの子は危険だわ。底の見えない穴に、なんのためらいもなく飛び込むことのできる人種よ。このまま放っておいたら、きっと怪物になる。我々はそんな危険因子を容認できない。ねえ、今からでも遅くない。あの子からパソコンを取り上げて、あなたたちの手の届くところに置くの。普通の子に戻る、ただそれだけ。そうすれば……。私もあなたたちの子供を殺したくないの」
彼女が必死の形相で訴えるのに、遠藤夫妻は笑いながら首を振る。
「それはむりだ。あれの才能はすでに花開いている。僕たちにそれを摘む権利はない。たとえ親だとしてもね。それに、」
彼らは顔を見合わせ、頷きあった。
「それに、私たちはあの子を信じてる」
二人の信頼と愛に満ちた笑顔に、彼女は思わず脱力してしまう。しかし、きっと表情を引き締め、二人を睨む。
「私は助けない」
そう宣言して背を向けた彼女に、遠藤夫妻は「また会えたら嬉しいな」と手を振った。
(あれも親ばか、なのかしら)
そう思うと、何故か胸が疼いた。
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