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「あれ?」
隣で一生懸命コマンドを入力してはエラーを繰り返していた尾崎絵里が、頓狂な声を上げてディスプレイに鼻が当たるほど顔を近づける。
そして丸眼鏡の向こうの目を瞬かせて真帆を見た。
「何?」
じっと横から見つめられて居心地が悪かった真帆は、自分のディスプレイから目を離さずに言った。
真帆の淡々とした声に、尾崎はたじろいで下を向き、しかしまた真帆を見る。が、何も言わない。
ため息をついて、真帆は尾崎に視線を向けた。
もう一度「何?」と言おうとしたところで、「おい」と前に座る遠藤長太郎がディスプレイの横から顔を出して困った顔で手招きする。
基本的に秀才だが英語だけは苦手な長太郎は、その傾向でコマンド操作も不得意だった。出席番号で近くなる真帆によく頼ってくる。
無言で立ち上がった真帆はトタトタと机を回り、長太郎のところまで行った。
隣に来た真帆を見上げ「これ、遠藤じゃないか?」と長太郎がディスプレイを指す。
おまえも遠藤だろ、と思いながら画面を見た真帆は、ピクリと眉を動かした。
いつも眠そうにトロンとした彼女の目が、わずかに見開かれる。そして左目を眇めて画面に顔を近づけた。
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